「しらかみな人」とつながるインタビュー 昌子の いつか白神でフォークダンスを。

第13回目 菊池 辰雄さん 漁師

「海の変化を感じ取るベテラン漁師の思い」


──漁師は思う。山があっての海だと


私は岩崎で漁師をやって37年。北海道でサケ漁をやったこともあります。今は船を三艘操り刺し網漁を行っています。


深浦町の漁港ではタイ、ブリ、ヒラメにマグロ。カワハギやフグも。豊富な種類が水揚げされます。 すぐそばに白神のブナ林があるおかげで、ミネラル豊富な海水になるのでしょうね。 栄養豊富な海では魚も美味しく育つので、私たち漁師はみんな「山があっての海なんだ」と思っていますよ。白神山地のすぐそばにあるここの漁場は恵まれているところだと感じます。


しかし、最近は海の変化が気になります。気候変動なのか原因ははっきりわからないけど、獲れる魚や獲れる時期が変わってきているのは確かです。 随分昔は春先になればコウナゴが沢山来ていたけど、群れで見たのは20年くらい前で、ここ最近はすっかり見なくなってしまいました。逆にこれまで獲れなかったような魚が獲れるようにもなってきています。


──漁網からスコップへ


我々より前の世代が植えた杉山が、荒れ始めていました。 杉林って手入れをしなければ草木の根が張れなくなるから土が痩せていくばかり。そうなると大雨や台風の影響で枯れた土が流れてしまうんですよ。


そういったところを再生するため、漁の無い期間に造林活動に参加したことがあります。その時は岩崎村の漁師50人が集まって、50町歩もの山を相手に下刈りから植樹まで一通りの作業を行いました。

植樹作業の現場では、森林組合の職員さんからたくさんの指導を受けたことを覚えています。漁師なので林業の経験なんて無く、「苗木を植えるときはとにかく足で踏んで」とか、色々注意も受けました。


普段は海で仕事をしているから新鮮な作業でした。休憩時間には山菜を採りに行ったりして、楽しみながらやっていました。まぁ、元々ちゃんと手入れしてくれていれば漁師が植林なんてしなくても良かったんだろうけど・・・(笑)

他にも「岩崎村森と川と海づくり記念植樹『ハタハタの森の里づくり育樹活動』」という事業にも参加しました。この時はブナの木を植えました。全国的にも「海と山がつながっている」という考え方が広まった時期ですね。


また、海岸のゴミが目立つようになり、漁の妨げになるのを防ぐために海岸清掃も行いました。

私たちが小学生の頃は砂浜も磯も、落ちているのは流木や落葉くらいで、人工のものなんかほとんど落ちていませんでした。プラスチックなんか逆に珍しくて「なんだこれ」というような感じで拾って遊んでいたくらいです。

それが今はプラスチックのゴミだらけでしょう。どうしようもないだけ寄せ集まってくるゴミを見て、親は海が危険だと子供に教えるし、それを聞いた子供たちは海に近づかなくなりましたよね。


私は出かける時には必ずゴミ袋を持っていくようにしていますよ。ゴミは必ず出てしまうけど、きちんと処分することが大切だと思っています。一人一人が自分たちでできる事に取り組んで、いつか昔のような海に戻って欲しいものです。


取材後記

漁師さんがこんなにも山を大切にしていると初めて知りました。海も川も山もみんなつながっている事を知り、「自然を大切にする」ためには広い大きな視野が必要だと感じました。インタビューとは別に、なかなか市場に出回らない魚の美味しい食べ方を伝授され、取材中にも関わらず取材者のお腹はグーグー鳴っていました。



(取材・文・編集/白神山地ビジターセンター 山本昌子  撮影/小田桐啓太)