「しらかみな人」とつながるインタビュー 昌子の いつか白神でフォークダンスを。

第21回目 戸澤 依香子さん  Naturology House(ナチュロロジーハウス)

「キーワードは『理解者を増やす』」


Q.ナチュロロジーハウスについて教えてください。


ここはランチやカフェ、アルコールを楽しむ飲食店であり、自然のものを活用する方法を学ぶ勉強会やワークショップの開催がメインでもあり。 人と自然、また人と人との共生をテーマに、色々な人がチャンスやきっかけみたいなものを得られるところを作りたいなと思ってオープンしました。


Q.どうして健康や自然をキーワードに?


私自身が本質的な健康志向に目覚めたのは30代前半で、身体に不調をきたしたことがきっかけです。 以前は東京でIT関係、ベンチャーなどの業界にいたので、だいぶ表面的なむしろ、ケミカルまみれな今とは全然違う生活をしていたと思います。お洒落なものが好きだったのでそういうもので自分の周りを構成していて。

でもいざ、30代前半で体調を崩したときに何が本質的なもので何が自分や周囲の人にとって大事なことか、すごくゆっくり考える時間ができたんです。


Q.考えて辿り着いた答えが「自然」だった?


考えついたところが、「あれ、やっぱり自然の方が良かったのかな」。 それに気づいてからとにかく必死で、追い付かなきゃくらいの衝動で色んなところにいったかな。

エゾシカの角でシャンデリアを作ろうと狩猟免許を取ったのも30代。 私は青森に生まれ育ち、小さい頃から山菜やきのこ採りをやらされていたおかげで思春期以降は「もう絶対あんな山なんか行かない」と思っていたのですが。


Q.自然を知ろう、時間を取り戻そうと思った30代で一番印象的だったことは何ですか?


印象的だったのは北海道のとある自然保護地区。自然環境を守るために人間が立ち入らないよう設置されたエリアだったのですが、当時すでにエゾシカの食害ではげ山になっていて、エゾシカが嫌う植物しか残っていなかったんです。他の地域ではエゾシカの狩猟が可能なので頭数のバランスが良く、植生が明らかに違っていた。その光景を見て「あ、これは違うんだ」と感じた。

すると何か、納得したんですね。東京にいた時の自分の暮らしも含めて。環境に良い事とか世の中のために良いことをしているようでも、表面的な理解しかしていないと実体に合わない。 そこから本質的なものを理解しないといけないとより思うようになりました。


Q.そういった経験から来る価値観が今のナチュロロジーハウスのスタイルに息づいている?


そうですね。ここで提供しているものは基本的にオーガニックでフェアトレードのものを使用しています。 また、開催しているワークショップの内容は自分が20代の頃には知り得なかったことだからこそ、今はアウトプットというか、色んな人にシェアをしていきたい。こうした考えが具現化されたものの一つが、いま企画しているワークショップになっています。一個一個自分が色んなところにいって得た情報を少しでも経験してもらえたらと思って。


Q.ワークショップはどんな風に作っていますか?


私のワークショップは理解者を増やすためにやっているので、ただ作って終わりではなく、なぜこうするに至るのか、どういう理屈なのかといった背景情報を理解してから身体を使う方に入っていくんです。その方が覚えやすいので。 大事にしているところは五感を使うところだと思っています。

どう役立つか、どう自分の身になるか、その視点で考えればワークショップなども含めて考えやすいかもしれないですね。 それから講師の方にによくいる「その道のスペシャリスト系」な人の言葉はマニアック過ぎて、初心者にはついていけないみたいなことがたまにありますよね。ですので「もう少し用語を低くしてみましょうか。」とフォローを入れることも。


Q.ナチュロロジーハウスはどんな方に来て欲しいですか?


生活する上で迷いや悩みに対する取捨選択の入口として、そういう方に来て欲しいと思っています。 色々な制約の中であちこち出掛けて行く時間がないのならば入口的な情報をここで取れるようにしたい。自分ではとにかく色々動きましたが一ヶ所で情報がもらえたらいいな、楽だなと思って。ちょっとそれで気が楽になったり、楽しんでくださったらという場所や機会を提供出来たらいいなと思って。


Q.依香子さんにとって白神山地はどんなところ?


私にとってはすごく居心地がいい場所だなという風に感じています。 私はこれまで色々なところに旅に出たので思うことですが、いわゆる世界自然遺産の中ではアクセスが便利すぎないところで保てていますよね。それってすごく私的にはいい環境だなって思っていて。

オーバーツーリズムなどで本来の自然のバランスから崩れているところなんかたくさんあるわけですよね。でも白神は素敵な環境とか良い環境が保てていると思うので、時間があって青森県に来られる方にはすごくおすすめしています。


Q.依香子さんが考えるこれからの白神山地のビジョンは?


現在すでに青秋林道建設への反対運動の流れなど白神山地の背景情報を知らない人が増えてきていているように思います。また、植生の偏りがある地域も日本にはたくさんありますよね。

今の白神の植生の豊かさは後世につなげていくべき価値のある場所だということで、オーバーツーリズムや開発等によって今の価値ある状態が失われないよう、また、今評価されている美しい景色が継続的に見られる地域であるよう、白神がある青森県に身を置く私自身も意識をもって、関わっていきたいと考えています。



(取材・文・編集/白神山地ビジターセンター 山本昌子  撮影/小田桐啓太)