「しらかみな人」とつながるインタビュー 昌子の いつか白神でフォークダンスを。

第33回目 三浦 和英さん 株式会社ラビプレ 代表取締役

「白神の森から美と健康を世界へ」


──「白神の森乳酸菌」について


弘前大学内の「コラボ弘大レンタルラボ」にオフィスを構える(株)ラビプレは、学内の各研究分野と協力してメイドイン青森の化粧品や健康食品の企画・製造・販売を行う会社です。 代表的な製品としてサケの氷頭から抽出したプロテオグリカンを使った化粧品ブランド「La Vie Precieusu(ラヴィプレシューズ)」を展開しているほか、2016年春からはラヴィプレシューズにリンゴ果実エキスを付加した「ラヴィプレシューズAPGライン」も進めています。


そんな(株)ラビプレが「白神の森乳酸菌」を扱うことになったきっかけは、世界自然遺産白神山地を担当する青森県庁自然保護課スタッフの方からの相談でした。 「白神山地のために、魅力的な商品を、コスメで作っていただけませんか?」商工などの担当ではない方からの問いかけに、初めは「不思議だな」と思ったそう。

しかしそのスタッフの方は、人と自然が共存してきた白神山地が世界遺産登録以降、人と自然の間に遠い距離ができてしまっていることを憂い、「程よく観光客に来ていただいて、人と自然が共存できるようにしたいし、白神山地にまた来たい、と思っていただけるような商品があれば素敵だと思うのです。」と打ち明けました。 想いを理解した三浦さんはすぐに弘前大学農学生命科学部で微生物の研究をしている殿内暁夫教授の研究室を訪ねました。すると教授から「白神山地の植物から分離された乳酸菌を用いるのはどうか?」という提案がありました。


乳酸菌は通常、嫌気性でその多くがヒトや動物の腸内に生息しているため、自然植物からの乳酸菌の発見・分離は大変難しいとされています。殿内教授は北欧の伝統的なヨーグルト製造法にヒントを得て試行錯誤を繰り返し、2016年に自然植物由来の乳酸菌の発見・分離に成功。 機能性試験の結果、キハダの葉由来の乳酸菌は血糖値の低下や内臓脂肪減少、筋量増加が期待される兆候などを確認。ブナの実由来の乳酸菌は粘膜の保護作用を持つムチン量の増加などが認められ、どちらも私たちの体に役立つ機能が見られることが分かりました。

三浦さんはこの希少な植物由来乳酸菌に対し、「これは地域の宝物だ」と確かな自信を持ち、白神から世界に発信するためにブランディングに着手。「白神の森乳酸菌」と名付け、商標登録を行いました。

2018年には「白神の森乳酸菌」配合初商品のフェイシャルマスクの販売を開始。最近は食品メーカー向けに健康食品用原料の販売を進めており、少しずつ事業を成長させています。 植物由来の乳酸菌は動物由来の乳酸菌に比べ、外国への輸出制限や、信条や宗教上の制限を受けづらいため、世界中の人の手にとっていただける可能性が高いそうです。 「白神の森乳酸菌を全ての人に届けたい」と話す三浦さん。 「全ての人」には宗教や性別、年齢、ポリシー、経済的格差、ハンディキャップの有無に関わらず、という意味が込められています。 その言葉から、誰でも手軽に健康を手にすることができる社会の実現への熱意が伝わってきました。


──人と自然が共生するために


「白神の森乳酸菌」のミッションは、「人と自然の共生を取り戻す」こと。「食料や居住空間を考えるとき、人間目線ばかりでなく自然界からの目線も必要ですよね」「これからの社会では、高度なレベルで自然と向き合うことが必要だという専門家もいます。我々は人と自然の共生に寄与する研究や事業をしたい」と話す三浦さん。

乳酸菌を例に挙げると、主に整腸作用が広く知られていますが、腸管免疫機能を最適化させることで体のバリア機能を整える作用があると明らかになっています。 乳酸菌を含む微生物の作用では他にも、環境にも私たちにも優しい自然由来の成分として空気清浄機器や消臭・除菌剤、下水処理剤など、環境浄化に利用されている実例もあります。 豊かな自然環境が保たれている白神の森には、まだまだ私たちの生活に役立つ力が眠っているかもしれません。


──100年先も明るい地元であるために


「人と自然を取り戻すこと」のもう一つの側面は、「地域の活性化」。 「白神の森乳酸菌を通じて白神山地への注目が高まれば、再び経済は循環することでしょう。 そして、そのサイクルの中に環境保全活動を組み込むことで人と自然をつなぎ、双方に良い影響をもたらしていきたいと考えています。」

三浦さんを奮い立たせる原動力は?と訪ねると、「実は起業前、保育園の施設長をしていました。当時は毎日園児たちを楽しませようと努力していました。その頃世間では、北海道のある自治体が財政破綻したニュースが話題になっていて、「自分たちが住む町も明日は我が身かもしれない」と、強いショックを感じたことを覚えています。子どもたちのためにも明るい未来を作らなければならないと思い、社会人大学院で最新のビジネスについて学びなおし、現在の経営活動に至ります。」

そんな三浦さんの目標は、地場産業の根幹を作る事。「青森県にまだまだ眠る豊富な農林水産資源の活用を通じて、次の100年に向け、ここでしかできない産業をしっかりと根付かせたいですね。」



(取材・文・編集/白神山地ビジターセンター 川島昌子  撮影/小田桐啓太)