「パトロールで白神山地を見守る」
──白神山地の巡視活動とは
巡視活動の期間は白神山地のオンシーズンである6、7月から10月までです。遺産地域の中やその周辺の自然に異変が無いか、また、人の手で危害が加えられていないか、現場を歩いて巡視します。
活動エリアは西目屋村、鯵ヶ沢町、深浦町と広範囲です。以前は3町村ごとに班分けして活動していましたが、現在は1班体制、3人一組で活動を行っています。
青森県側の世界遺産登録エリアには、核心地域に入山するための指定ルートがあるので、特にそのルートを巡視することが多いです。
活動はのぼり旗や看板の設置に始まります。核心地域に向かって沢登りをしながら巡視する日もあれば、白神岳の登山口で入山者に対し登山マナーの呼びかけをすることもあります。指定ルートは傾斜が急で足元がよくない場所や、広い川幅を渡る必要がある場面も多いので、巡視中は常に気が抜けません。
そんなときにマストアイテムとして携行しているのがお手製の杖です。巡視には様々な道具を装備していきますが、この杖は三人必ず持ち歩きます。アオダモやブナなどの丁度いい具合の枝を見つけ、樹皮を剥いで杖に仕上げます。川の深さを図るためや、目の前のものをよけたりするのにも使えるので杖一本で何役も果たしてくれます。三人とも歩くペースが違うので巡視中は目的地に向かってそれぞれのペースで歩きます。休憩場所は大体決まっているのでそこで落合い、今日の様子を話し合ってまた出発します。
──グリーン・サポート・スタッフ(以下GSS)とは
世界自然遺産や日本百名山のように来訪者が集中し、植生の荒廃等が懸念される国有林野において、貴重な森林生態系の保全のために、巡視やマナーの呼びかけなど普及啓発活動を行う森林保護員のこと。白神山地エリアのGSSは東北森林管理局より任命される。
兼平 隆一 出身:鯵ヶ沢町
白神山地の素晴らしい景色を眺めながら歩くこの仕事は最高だと思う。休憩時間にじっと自然を見つめていると、小さな悩みなんて忘れてしまう。危ない経験をしたこともあるけれど山の神様に守られてここまできた。
Q.白神山地で一番好きな季節はいつですか?
全部いい。だけど敢えて言うなら早春の時期かな。雪がまだ残る中ブナの葉が若竹色に色づく風景は大変美しいです。
三橋 啓克 出身:鯵ヶ沢町
「白神山地は他の山と違うよ」と言われたことがある。他の山では岩場や人工の林が多い中、天然の森がこれほど広がる場所はここくらいである。白神は眺望を楽しむ場所ではなく、森の豊かさを楽しむ場所。それが他の山との違いだと気づいた。世界遺産地域に入ればそれを色濃く実感できる。
Q.遺産地域の中にゴミはおちていますか?
ほとんど見ません。入山者が多くないこともありますが、皆さんのマナーも良いのだと思います。私たちも自分で出したゴミは必ず持ち帰りますし、なるべく用も足さないようにしています。
今 信一 出身:鯵ヶ沢町
白神岳は標高約1,200mの山。高さだけで見るとそう大きくないように感じるが登山口が海辺の傍なので標高差は約1,000mにもなる。簡単な山と思って侮らず、しっかりとした装備で登山してほしい。
Q.白神山地の中で印象的な場所は?
クマゲラの森です。下枝が無くスッと伸びたクマゲラの営巣木を見た時「ここが白神だ」と感動しました。
取材後記
取材中は楽しくお話ししてくださいましたが、白神を見守り続けてきたからこそ発せられる言葉には非常に重みがあるように感じました。
また、道中には三点支持が必要なポイントがあり肝が冷えました。このような場所のパトロールは誰でもできることではなく、いとも簡単に足を運ぶお三方を白神の森のヒーローと呼びたいです。