「しらかみな人」とつながるインタビュー 昌子の いつか白神でフォークダンスを。

第14回目 大野 美涼さん 大学院生

「白神山地に魅了され植物標本の世界へ」


──学部時代に出会った白神山地。あれよあれよと、沼にハマる


北海道が地元の私からしたら、この地域はすごく特殊に感じました。ここに来て初めてブナを見た時、下の方に枝が無いシュッとした姿に「凄いな」と思いました。それに地面が落ち葉ですごくふかふかしていることにも感動して。私にとっては植物にハマったきっかけの場所です。また、大学1年生の時から参加しているブナ林モニタリング調査会のみなさんのチームワークや温かさなどにもとても魅力を感じました。

それでもう、沼に引きずり込まれるように先生方の調査にもあちこちついて行かせていただきました。白神は私にとって植物ともそうですけど、人とも繋がる場所ですね。

趣味で山に登ったりはしないけれど、調査では向白神岳にも行きました。「これってこうかもしれない」と考えるのが好きで、そういうのを求めて時には冒険家のように藪こぎもしちゃいます。


──標本整理に没頭した大学生活


樹木医を目指して大学に入学した1年生の冬、植物の事をもっと覚えたいと思って標本整理の手伝いを始めました。先生にアルバイトとして声を掛けていただいたことがきっかけで、当時は他にアルバイトはしていなかったので単純にお金が欲しかった思いもありました。初めは標本なんて見たこともない状態で、「枯れた葉っぱだなぁ」としか感じなかったです(笑)。それでもどんどん標本整理に没頭していき、2年生までは授業の空きコマの度に標本がある部屋に行くようになり、気づけばいわゆる大学生らしい生活はしていなかったかもしれません。


整理作業自体は押し花状態になった植物を台紙に貼り付けたりラベルを貼ったりする単純作業なので自分が採集を行うことはほとんど無いのですが、採った人が採集した植物と一緒にその時の場所や日付、種類の推測メモを挟んでくださっているので、それを見ながら現地に思いを馳せていました。採集した人、凄いなぁとも思います。


あと、同じ種を見比べるのも楽しいですね。植物って同じ種だったとしても個体によるバラつきが結構大きかったりするんです。並べて見比べると「これは本当に同じ種なのか!?」って驚きます。机の上に標本を広げながら同じく植物好きな先輩と一緒にあーだこーだ言いながら楽しくやっていました。


──標本は植物の事を知る手近な手段


例えば私が現在研究しているカエデは、種が違っていても葉っぱの区別がつきづらい事が結構あるのですが、標本なら数種類をまとめて見比べられるのがいいですよね。あるいは、白神山地に生えている植物を見に行こうとしても、台風で行けませんでした、みたいな日があるかもしれないけど、標本にはそういう事が無いのでいつでも見ることができるし。標本は植物を観察したいときのままでフリーズさせられる。形は潰れるし色も落ちちゃうけど、実物であることには変わりないんです。

だから、こういう研究に携わり始めた身としては一点一点きちんと残していかなきゃなと思います。標本だけではなく、白神の自然もずっとこのままであってほしいですよね。あまりできることはないかもしれないけど、これからも白神山地に携わっていきたいと思います。


取材後記
植物の事を語るときのキラキラした目が印象的な大野さん。一番好きな植物は何ですかと問いかけるとブナとカエデで揺れている様子は樹木に恋をしているように見えました。また、目立たない作業のように感じる標本整理に大学生活の多くの時間を費やすほどの好奇心は、まさに研究者という感じがします。植物標本を使って現地では気づけない細かな観察もしてみたいと思いました。



(取材・文・編集/白神山地ビジターセンター 山本昌子  撮影/小田桐啓太)