「しらかみな人」とつながるインタビュー 昌子の いつか白神でフォークダンスを。

第15回目 平川 久二夫さん  世界遺産白神山地ブナ林モニタリング調査会

「ボランティアとして長年にわたりブナ林を観察」


──モニタリング調査とは


白神山地のブナ林のモニタリングは1999年から環境省によって始まった、白神山地の核心地域を対象にした調査です。現在は私たち世界遺産白神山地ブナ林モニタリング調査会(以下調査会)が環境省と協力しながらボランティアで調査を続けています。モニタリングとは、対象を継続して観察し記録していくことを言います。長い期間この調査をつづけることで、現在がどういう状態で、どう変化していくのかを知ることができます。

調査というとなんだか難しいもののように聞こえますが、この調査会では研究者や行政関係の方の他に、社会人や学生などの一般の方の参加も受け入れています。私もその一般参加者の一人です。


──白神を見守り続ける輪に加わる


調査会に加わる前、ガイドさん向けに行われた白神山地の学習会に参加したことがあります。そこで調査会の初代会長である齋藤宗勝さんと出会いました。学習会が終わった後に彼がモニタリングの説明や調査会の活動について話し始め、「この調査は長い目で見る事が大事なんだ」「そのためには地元に住む皆さんが中心になって調査を続けてほしいんだ」と思いを語っていました。私はその話を聞き、これは凄いことだと感銘を受けました。

「何ができるかわからないけどやってみよう」という気持ちを胸に、現在まで参加を続けてきました。気づけば初めての参加から、今年で20年目を数えます。 彼の「地元の人が中心になって」という思いのもと、研究者と行政と一般市民、あらゆる立場が一つになって自然を見つめ続けることに確かな価値を感じています。


──何年経っても感動の瞬間に出会う場所


6月から11月まで、年間6回の調査には一回当たり20名近くが集まります。ただ、ここ数年はコロナの影響によって15人程度に抑えてきました。活動内容は、種から芽を出してすぐの赤ちゃんブナを数える調査や、100メートル四方の中にあるすべての木の種類や幹の太さを記録する毎木調査の他、リタートラップの設置や回収になります。リタートラップとは、落葉や落枝、種子などの樹木からの落下物を回収するための道具です。


赤ちゃんブナを数える調査をしてみると、大きく成長するブナがどれだけ幸運なのかがよくわかります。この調査は毎年9月にやるのですが、春に芽をだしてから夏が過ぎるまでに多くのブナが淘汰されて枯れてしまいます。9月に残っている赤ちゃんブナはほんの一握りなのです。調査で山に入ると、観察している木々の変化には気づきますが、山自体が変わってしまったなぁと思うことはあまり感じません。 かといって同じ風景に飽きる訳ではなく、新しい出会いや感動は絶えません。参加する季節や一緒に行く人の違いで、見える景色が全く違うものですからね。


様々な立場の人と一緒になる事で知らなかったことを教えてもらう機会も豊富です。自然との出会いもさることながら、人との出会いも楽しみの一つです。また、長い期間同じ場所に出かける事で、毎年のわずかな違いを敏感に捉えられることもあります。

まずはこんな風に自然にふれあうことを楽しみに参加してみてほしいですね。そして白神山地が良い場所だと思えば、この森を守るため行動するようになると思います。自分の生活の見直しをしたり、社会の在り方を考えてみようと思ったり。それが自然を守ることや、人間の生活を守ることにも繋がるのではないでしょうか。


取材後記
長い時間を生きるブナを継続して観察し続けるのは大変難しいことのように感じます。しかし平川さんのお話しを聞きながら、自然の中で過ごす楽しさを伝えていくことがまずは第一歩だと感じました。日々の観察の積み重ねが未来の自然を守ることに繋がることを皆さんにもお伝えしていきたいと思いました。


(取材・文・編集/白神山地ビジターセンター 山本昌子  撮影/小田桐啓太)