「しらかみな人」とつながるインタビュー 昌子の いつか白神でフォークダンスを。

第34回目 中井 智さん  白神オークプロジェクト/Shirakami Lab合同会社

「しらかみの周りから、白神を守る」


──「ナラ枯れ」から白神山地を守るために

─まずは「白神オークプロジェクト」について教えてください。

このプロジェクトは青森県が発足したものでして、ナラ枯れ被害拡大防止のために、被害木周辺の広葉樹を伐採し、そこで得られた木材を使って良質な木製品作りをしようという取り組みになります。

─ということは、被害を受けた木そのものを加工する訳ではないのですね。

そうです。被害が確認された木は感染拡大防止の為、持ち出しが出来ない事になっているのですよ。

─そもそもどうしてナラ枯れ被害が深刻化してきたのでしょうか?

様々な要因がありますが、最たるは里山の手入れが出来ていないところに問題があるようです。

─里山ですか。確かに放置された里山の荒廃が進んでいると耳にします。昔は生活に必要だったから里山の木材を切り出して、それが適切な手入れに繋がっていたということですね。

そうですね。そして、高齢樹が増えた環境を好むのがカシノナガキクイムシ。

─ナラ枯れ被害の原因となる虫ですね。

そうです。

─カシノナガキクイムシの特徴を教えてください。

ナラの木の幹に穴をあけて内部に侵入し卵を産みつけるのですが、同時にナラ枯れの原因となるナラ菌を持ち込みます。ナラ菌は孔道を伝ってまん延し、木は通水機能を失って枯れてしまいます。

─どういった被害が危険視されているんですか?

一番身近に感じる危険としては、被害を受けた木が大体4、5年で倒れてしまうところにあります。公園に生えている木が被害を受けて倒れたら、通行人が怪我してしまうかもしれませんよね。他にも樹木は水資源を守るっていう役割を果たしていますが、それも出来なくなります。クマなど、ドングリを餌にする動物たちも困ってしまう。

─ナラ枯れってどんなものかイメージしにくかったのですが、被害が拡大すると私たちの生活にも影響が出てくるのですね。白神山地にもコナラやミズナラはたくさんありますが・・・

青森県のナラ枯れ被害は、世界自然遺産「白神山地」の景観をつくっている周辺の里山に集中しているんですよ。岩木山が赤く枯れていたらきっとみんな騒ぎますよね、ナラ枯れが見えるから。

─津軽ならどこからも見える岩木山ですもの。間近で異変を見れば、なんとかしなきゃという気持ちが湧きますね。

けれど白神山地は見えないんですよね。見えないので、誰も声を上げないし、どういう保護の仕方をしようって話になってこないんですよ。

─そうか。白神山地は独立して目立つ場所ではないですからね。里山で被害が拡大すると、気づかぬうちに白神の森林部にまで影響が出てしまう可能性がありますね。

そうです。白神山地の景観や生態系を守るためにも、周辺の森林の若返りを進め、被害を受けにくい健全な森に転換するとともに、広葉樹材の有効利用に取り組まなければなりません。


──白神オークを新たな地域資源に

─中井さんご自身は白神オークプロジェクトとどのように関わっているのですか?

以前は木製家具のメーカーにいたので、その経験から県の方からお声が掛かりました。

─そうなんですね。木製家具に詳しい中井さんが思う、木製家具の良いところを教えてください。

木は、人にも環境にも優しい唯一の素材です。伐採し、再び植えて育てることにより、半永久的な循環利用が可能な資源です。

─自然が創り出した素材ですものね。

プラスチックや金属に比べると素材として物理的にやわらかですし、温かな色合いの木目の表情というのはリラックス作用ももたらしてくれます。人に優しいものが一番ですね。

─そうですよね。「白神オーク」という名から分かる通り、このプロジェクトで扱うのはナラ材でしょうか?

そうです。ナラ材は明るく木目が美しいため、高級材として世界中で家具などに使われています。しかし青森県ではこれまでナラを使った物作りはされてこなかったのです。

─不思議ですね。なぜでしょう?

材料として売るだけで収益が出るので付加価値を求めて来なかったのだと思います。他の県では青森県から仕入れた材料で家具を作って、たくさん付加価値をつけて販売しています。その状況ってすごく悔しいじゃないですか。

─素材がこれだけ豊富なのに惜しいですね。

そうでしょう。白神の麓で育ったナラはここにしかない、特別なものですから、確実に価値のある物になると思っています。

─ブランディングで意識した点はどんなところですか?

白神山地を取り囲んだ里山の「環境保全のためのものづくり」という点と、スモール&スローという点ですね。

─スモール&スローとはどんな意味ですか?

白神オーク材の供給・加工体制は、まだ試行段階。製作にかかるスパンも長いので、少しずつボリュームを増やしてお客様に評価を頂きながら、安定した需給体制の確立を目指すことを意味します。

─木の成長と同じく、ゆっくり少しずつ成長していく地域産業になりそうですね。では、白神オーク材で作った製品をどんな方に使ってほしいと考えますか?

細かい設定はしていませんが、自然や環境、健康に関する意識が高い方にはご興味を持っていただけるかと思います。山本さんが座っている椅子の素材は白神オークの無垢、座面はデンマークのペーパーコード。金物は一切使用していません。仕上げも化学添加物の一切無い蜜蝋ワックスを使っています。

─とってもエコな材料で作られているのですね!

ペーパーコードも全て手編みで手間が掛かるので、大手のメーカーさんはやりたがらないでしょう。大手がやりたくないことを逆に反映して、ここでしか出来ないものを作っていきたいですね。

─人に優しいもの、自然環境に優しいものを価値として選ぶ人が今後ますます増えるでしょうから、大きな強みになりますね。それに、木製品づくりを志す若者の受け皿にもなり得ますね。

そうですね。地域に魅力ある「しごと」を生み出し、森林の次世代への更新を目指す活動を、これからも継続していきます。



(取材・文・編集/白神山地ビジターセンター 山本昌子  撮影/小田桐啓太)